この辺りの古い家の壁は、焼き杉で覆われている家が多い。
焼き杉とは『杉の板を焼いた物』である。
名前のまんまだけど。
古い家の場合は、本当に焼いてあるのだが、現在売られている『焼き杉』は、実際には焼いてはいない。
表面をバーナーで、炙ってあるだけだ。
なので、建築材料も、世のご多分に漏れず【○○風(ふう)】になってしまっている。
要するに、焼き杉風なのである。
本来であれば【風】物には、ちゃんと、○○風と書いてもらいたいものだが、ほとんどの商品には書いてはいない。
加工食品に関しては、ほぼすべてと言っていいほど、○○風であるのだが。
もちろん、僕は、“風” ではなく、ちゃんと、ボーボーと焼いた。
夏の失態があるので、ボーボーと火を燃やすことに、少し躊躇する気持ちを感じたが、今回は、マイルールを破らずに、さらに輪をかけて安全策を講じてから挑んだ。
まずは、杉板が3mあるので、倒しても周辺に火の点くものが無いように、クボちゃん(ユンボ)で整地するところから始めた。
場所は、本宅予定地になるので、焼き杉のためだけに整地をするわけではいから、一石二鳥である。
そして、今回、初めて登場するのが、単管パイプ(鉄パイプ)だ。
こいつを買ってきて、杉板を立てかける台にする。
今まで、台というものを、木で作ってきたが、今回は、当然、木で作ったら燃えてしまうので、金属の登場というわけである。
杉板は、三枚を一組にして、三角の煙突を作り、火の上に立てかける。
すると、火は、煙突になっている杉板の真ん中を駆け上っていき、焼き杉が完成するというわけである。
これは、さすがに一人では出来ない。
というより、一人では、出来ないことはないが、一つ一つやらなければならず、物凄い時間がかかるし、目を離せないので危険である。
なので、毎週末、助っ人に来てくれる山友たちに手伝ってもらいながら、作業を進めた。
やはり、四人いると素晴らしい。
火担当、焼き具合担当、水かけ担当、運搬担当と、担当に分かれて作業を進めること、三時間。
朝から午前中いっぱいで、百枚の杉板を焼くことができた。
この日、夕方から雨の予報だったが、午前中から、霧雨が降り始めていた。
絶好の焼き杉日和であった。
終了後は、火を燃やした場所を土で埋め、焼いた板は、その場に放置。
雨が降り、火を消してくれた。
成功だったかといえば、成功とは言えないかもしれない。
やはり、上と下では焼きムラが出たし、端っこが燃え尽きてしまったものもある。
三角にしたものがズレ、重なってしまった部分が、まったく焼けていないものもあった。
しかし、これが、逆にイイ。
均一に、きれいに仕上がってしまっては、機械生産と同じだ。
昔『ファジー機能』というものが、世に出回ったことがあった。
これは、曖昧ということだが、状況に応じて対応を変化させるというものだ。
現在のAIに通じるものだと思われる。
今回の焼き杉は、別にファジーでも、AI的でもなく、単に、ムラではあるが、それでも、均一均等ではなく、不均等ゆえの良さが出ていると思う。
プロフェッショナルは、故意に不均等にしてデザイン的にすることがある。
それとは、もちろん比較にならないが、まあ、でも、不均等も良いということで、今回の焼き杉は、成功として良いだろう。
次回、焼き杉をやる機会があれば、その時は、故意の不均等を目指したいものである。