月と団子とバイオリン

昨夜は、中秋の名月。
十五夜お月さんというやつだ。
こうした言葉は知ってはいても、それを心ゆくまで愉しむ(たのしむ)ということはなかなか無い。
この日本で、どのくらいの人たちが、月を見上げながら団子を食べていただろうか?

今回は、山友の提案で、

夜の山に登って、岩の上で月見をしながら団子を食べよう!

ってことになった。
この3年で、夜の山に登ったことは一度もない。
そして、月見団子など、ずっと昔、小学校低学年程度の時に、縁側でやったような、やってないような・・・
そんな程度の記憶くらいしかない。

真っ暗な夜の山、何が潜んでいるのかわからない中を登ってくというのは、一人では、とても怖くて行く事はできないが、今回は五人。
これだけいれば、夜の山も、そう怖くはない。

さらに、今回の団子がすごい。
団子の元になる餅米粉は、自然栽培米から作られたもので手作り、あんこも手作り、もちろんみたらしも手作り、さらに、きなこは、自然栽培の自家栽培で作った大豆から手作りという、完全手作りの団子なのである。
(僕は、何もしてないけど)
ほとんどの人々は、団子は買ってくるものだろうが、団子を含め、売っている餅類には、保存料などがたっぷりと入れられている。
そうしなければ、餅というのは、すぐにカビが生えたりしてしまうからだ。
それに、正直言って、美味しくはない。

それに比べて、自然栽培の餅米での手作り団子は、団子だけでうまいし、あんこも甘さ控えめで小豆の味がしっかり、みたらしに使う醤油は美味しい本物の醤油で、きなこなどは、売っているものとは大違いで、しっかりと大豆の味がする。

夕方、作ってきてくれた芋煮をみんな食べ、暗くなりかけた頃に、山に登った。
岩場に着くと、真ん丸な月が出迎えてくれた。

明るい!とてつもなく明るい!

まるでライトが点いているように明るい。
と言っても、月自体が光を放っているわけではないのは、誰もが承知の事実なのだが、それがわかっていても、この明るさは月が放っていると思えるほど明るいものだった。

これだけの明るさを感じることができるのは、やはり、周辺の暗さがあるからだろう。
空を見上げると、夜の空さえも明るく照らされている。
昨夜、僕たちが月見をしている間は、雲一つない空だったのに、雲に反射するわけでもないにもかかわらず、空が「黒」ではなく、グレーになっていた。

昨日が大雨だったせいか、大気のチリも雨で落とされ、夜景も素晴らしく綺麗に見える。
最近問題にしているゴルフ練習場の明かりも、100m上に上がるのと、月の明かりがあまりにも明るいため、それほど嫌な気分にならなかったのは、不幸中の幸いと言える。
実際、昨夜岩に登るまでは、ゴルフ練習場の照明が、月見を台無しにするのではないか?と心配していたが、それには及ばなかった。

そして、もう一つ、ある事実がわかった。
僕が住んでいる小屋のところよりも、山に登った上の方が寒くなかったという事。
初めは、歩いてきたので、体が温まっているのだろうと思っていた。
そして、しばらくしても冷えてこないのは、団子を食べたからだと思っていた。

しかし、実際には、小屋周辺の方が俄然寒いということに、下に戻ってきてわかった。
理由は、はっきりとわからないが、抜けていく風が、明らかに下の方が冷たかったのである。
不思議だ。

下に戻ってからは、バイオリニストさんにバイオリンを演奏してもらった。
それも、屋外というのはもちろんだが、溜池のところは、谷に囲まれており、反響音がすごい。
まるで、どこかの巨大ホールのように響いてくる。
僕は、よくここで歌を歌っているのだが、ほんのりと反響して、歌っていても気持ちがいい場所なのだ。

この場所で、月に照らされながら、バイオリンの音色に耳を傾けた。
地べたに座って、聴き入っていると「こんなことは、大富豪しかやらないだろうなぁ」と思えた。
それは、まさに、プライスレスなイベントだった。

屋外で、バイオリンを聴くとか、少人数のために弾いてもらうとか、そうした事は可能だろうが、巨大ホールのような響きの中で、聴く人はたったの四人とヤギ一匹、そして、自然界の面々という贅沢さ、さらに照明は月明かりだけで、余分な明かりは一切なし。
こんなことが経験できる人は、世界中探しても、本当に稀だろう。

僕は、東京青山のスタジオにおいて、多くの演奏家の写真を撮影してきた。
その際、インスピレーションを受け取るために、楽器を奏でてもらっていた。
青山のスタジオも、非常に響く空間だったが、やはり、山はそれとは比べものにならない。
サントリーホールで聴いたオーケストラでさえ、この山の雰囲気には負けてしまうほどだ。

一人だったら、こんな事はやらなかったし、きっと、多くの人たちも、他に一緒に愉しむ人がいなければやらない事だろう。
こうして、一緒に時を愉しむ人たちがいてくれるというのは、実に良いものである。
本当に、みんなに感謝したい。

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